【映画レビュー】体験型絶望アトラクション『ダンケルク』

3.5
映画の話

根強いファンがいる一方で「暗い」「理屈っぽい」「なんかめんどくさい」とのヘイトを集めがちな、クリストファー・ノーラン監督作。

その中でも、第2次世界大戦のダンケルク撤退をテーマに描かれた作品が映画『ダンケルク』です。

ちなみに、私はどちらかと言えばファン側ですが「クリストたその作品は全部奥深いし何でも面白いでしゅ」という域には達せないので、信仰的なファンとも熱烈なアンチとも話が合いません。煽ってません。

以降、そういう乗りのレビューです。ネタバレありです。

 

ストーリーはほとんどない

 

本作はダンケルクを主軸として、陸・海・空それぞれの視点から戦争体験が描かれた作品。

個々の視点は異なる時間軸で語られていて、最後には1つに集約されていく構成が美しいです。

とはいえ、時間的ズレが事細かに把握できなくても、話の内容が意味不明になるような作りにはなっていないので、意外とぼんやり見ても大丈夫な映画だと思います。

 

なぜって、複雑怪奇なストーリー要素とかは一切ないので。

 

加えて、作品の舞台についての情報量も少ない。

少ないというか、ほぼない。

そもそも第2次世界大戦におけるダンケルクがどういう立ち位置に置かれていたのか、歴史的背景を触りだけでも知っておかないと、訳のわからない話に見えるだろうと思います。

 

それだけに、徹底してエンタメ的ストーリーや状況説明が削ぎ落とされた実録映像のような内容にまとまっていて、鬼気迫る効果音やら音楽やらで作り出されたムードは半端ないです。

雰囲気が暴力です。絶望体験型アトラクションと名付けます。

台詞の少なさも相まって、没入感を演出してきます。

 

褒め言葉のつもりで書きますが「緊張感が全て」の映画。

 

考えてみれば、戦争に明快な物語なんかないだろうし、劇的に展開を引っ張るヒロイックな存在もそうそういるもんじゃないだろうとは思います。良くも悪くも、状況を全部説明してくれる都合のいい解説役だっているはずがないんですよね。

人を選ぶ映画であることは確かですが、普通の戦争映画に飽きた人には大手を振っておすすめしたい、異様さが醍醐味です。

 

序盤は絶望しかない

 

絶望だけがお友達。

特に前半から中盤にかけてなんかは、いつ襲い来るとも知れない空爆への恐怖やら、追い詰められた人間達が右往左往する様子やら、ゴミのように当たり前に死んでいく様を延々と描写しただけの「鬱映画」のそれです。

いくら逃げても、ドイツ軍による度重なる爆撃に沈没させられる船。

自らの生き残りを懸けて、兵士達は手を変え品を変えダンケルクからの脱出を試みるものの、ことごとく潰されていく。

どこでどういう人がどんなバックボーンで戦場へやってきたのかすら、仔細には語られないし「俺、故郷に帰ったら結婚するんだ」とか「きっと助けは来るさ」みたいな希望(という名の死亡フラグ)を語って盛り上げ要員となる人間だって、誰一人としていない。

ただただ混迷と暗鬱を極める状況下で、死者やら負傷兵やらが増えていく。どこでどう命を落としたのかもわからない、波打ち際に押し戻されて来た死体を、死んだ眼の兵士達が淡々とどかしながら、いつ来るとも知れない救助を待っている。

本作が戦争の残酷さを雄弁に語る反戦映画でもなければ、戦況を覆す鮮やかな英雄譚を描いたものでもないことは歴然としています。

戦場に横たわる漠然とした絶望と虚無感を、ひたすらに突き付けてくるストイックさは、壮観の一言。

 

そして「戦争映画」と聞くとドンパチと繰り広げられる派手な戦闘やら、華のあるグロテスク表現みたいなものを想像してしまいがちですが。

本作はその真逆を行く、殺伐とした淡白さが最たる特徴です。

もう空爆なんかは、当たり前にある災害のような描かれ方をしています。

「自分に降って来ないことを願うしかないんですよねー」とでも言うように無言で地に伏せる兵士達。脅威が過ぎ去ったら、運悪く爆撃に巻き込まれてしまった遺体を横目に、疲弊し切った顔で撤退行動に戻るだけです。

 

何だこの映像、ってなります。

永遠に続くのではないかという鬱映像の数々、もはやギャグの領域です。

だって、笑うしかない状況なので。

 

異様なリアリティをもたらしてくる体験映像の連続で、観ていて疲れる人が多そうな印象です。

いや、そりゃそうだ。戦争(ましてや追い詰められた撤退戦)なんて参加させられたら、疲れそうじゃないですか。まさにそういう意図で作られた映画なんだろうと思うと、監督の狙い通りなのかもしれませんが。

そういった意味で、本作は戦争を描いた映画でありながら、戦争映画ではないと思わされました。

 

どうでもいい話ですが、クリストファー・ノーラン監督作品って、どうしてこうも他の同ジャンル作品と一線を画するような差別化を、惜しげもなく叩き付けて来るんでしょうか。あの監督、性格悪そう
同監督作をいくつか見て思うことですが、一部の人から「鼻につく」と嫌われる理由が滅茶苦茶わかりますよね。

私は好きですけど。

 

主役がいない

 

「説明役がいない」と前述した通り、登場人物達は一々ヒロイックな自分語りをしないし、彼等の背景が事細かに示唆されることもありません。

なおかつ、誰かが突出して大活躍する話ではなく、戦争という災害(人災?)に巻き込まれた大衆の有様を、そのまま切り取ってきたような印象の映画なので、明確な主役がいません。

 

有り体な表現ですが「登場人物みんなが主役」です。

 

主軸となる3視点は、

・極限状態に追い詰められ、死物狂いでダンケルクから脱出しようとする兵士達。

・彼等を救出しようとする民間船。

・救出を阻害する敵機と戦うパイロット。

 

彼等は群像劇と言えるほど密接に影響し合ってはいない気がするし、戦況そのものを覆すような何かをもたらす訳でもないです。

ただ、それぞれの立場で為すべきことを為し、絶望的な状況下で小さな奇跡を起こしていく姿は、意外とロマンのある描かれ方をしています。

 

映画全体としてのマクロな視点では、ほぼストーリーがなく淡々とした展開しかないのに、登場人物のミクロな視点ではちゃんと個々に動きがある。

 

特に、ダンケルクに残された兵士達を助けようとする立場(民間船やパイロット)の登場人物達が、最後にはいくつもの希望をもたらしてきます。

しかも、これが妙に言葉少なでさり気ない。

「全米が泣く!」みたいな大仰な演出をしない辺りが、一々おしゃれです。

 

名も無き人々の、名も無き英雄譚

 

前半から中盤にかけての「この世の終わり感」というか「虚無と無力感のバーゲンセール感」が粘着質過ぎるだけに、最後の最後に、人々の持つ凛々しさや芯のある心を描き出すような展開は見応えがありました。

 

家族を戦争で失い、兵士救出のために民間船で奔走する老人。

砲弾ショックによる精神異常に陥りながらも、最後には他の人間を助け出そうとする兵士。

全ての兵が撤退するまでダンケルクに残る海軍の上官。

戦地から逃れた敗走兵達を迎え入れる、温かな民衆の姿。

 

もう列挙した登場人物の特徴からして、アメリカンな戦争映画によくある愛国主義的な美談感が滲み出ていますが。前述した通り、全米をむせび泣かせる勢いで盛り上げ過ぎないさり気なさに、味わい深さがあります。

 

特に、ダンケルクへと辿り着いた民間船を爆撃しようと迫り来た敵機を、燃料が切れても撃墜したパイロットの最後は印象的。

パイロットの勇姿に、地上の兵士達からは束の間の歓声が上がりますが、プロペラの回転は途絶えています。称賛に湧く彼等の上空を過ぎ去り、後は堕ちて行くばかり。

自軍の防衛線の外にまで流されてしまったのか、誰もいないダンケルクの白い砂浜へと静かに降り立ったパイロットは、最後には敵軍に包囲され、彼がその後どうなったかは一切語られません。

 

個人的に、燃える戦闘機を眺めるパイロットの背中は、この映画の中で最も記憶に残る場面でした。

しかも、この間の台詞が一切ない。そこがまた渋い。男は背中で語るんですね。知らんけど。

歴史に名を刻むでもない誰かの志が、誰かの命を救ったのかもしれない、という静かな余韻を残す内容です。

 

他人に勧めづらい映画

 

ブログまで書いておいてあれですが、私が言うほどの映画オタクじゃない所為か「こんなに他人に勧めづらい映画が他にあるか」と思わされました。

決して、つまらなくはないです。

しかし、おもしろいかと問われると首肯できない。

 

何せ、ストーリー展開に富んでいる訳ではないし、大衆受けしそうな美談的でわかりやすい終盤に行き着くまでの道のりが、淡々とし過ぎています。

最後までちゃんと観てくれる辛抱強い観客向けの作品かな、という印象が拭えない。

 

既存の戦争映画とは、まったく異なる作風のような気がするので「戦争映画」としても勧めづらいし。

クリストファー・ノーラン監督自身が「これはサスペンス映画」と称していたらしいですが、サスペンスにしたって、序盤からぶっ続けで垂れ流される緊張感には緩急がない。

緩急のなさ故に生まれる、鬼気迫るリアリズムと引き換えに、映画としては「掴みの悪さ」を生んでしまっているような気もする訳です。

やはり、良くも悪くも緊張感が全てです。

そこに没入感を覚えられるかどうかが、この作品の評価を大きく左右するに違いありません。

 

私は「良いから最後まで観ろや!」と啖呵を切れるほど、うざい映画好きにはなれそうにないので。

普通の戦争映画に飽きた人にのみ、元気よく勧めたい作品と思います。

他の人には、とりあえず緊張感を楽しめ、と言いたいです。

 

良い映画だったなぁ。私は好きだ。

この一言に限ります。

 

おまけ

 

ドイツ軍の描き方が親切

 

正直、あれこれと映画を観ていると「戦争映画におけるドイツは、悪者に描かないといけないお約束がありそう」という印象を禁じ得ません。

大体、ヒトラーの所為なんだろうな。

しかし、本作に登場するドイツ軍は、ほとんど災害のように銃撃や爆撃をもたらしてくる「脅威」としてしか描かれていないので、善悪の観念がほぼ存在しないのが、個人的には好感触でした。

 

おしまい

 

「何が見える?」

「故国だ」

救出にやってきた数多の民間船を「故国」と呼ばせるシーン、超シャレオツです。

クリストファー・ノーラン監督作ファンに「スクリーンで観ないと意味がない」とまで言わしめた理由がよくわかる、没入感重視の映画でした。

私はノートパソコンにDVD入れて観ましたけど。

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