【映画レビュー】究極の外出自粛!『U・ボート』の魅力

映画の話

人は自分より困窮した人間を見ると、安心できるらしいよ。

そんな訳で、某ウイルス騒動により「外で遊びたいよぉ」「気が滅入るよぉ」などという甘っちょろい暗鬱に浸る全ての人に、おすすめしたい映画がある。

 

U・ボート

 

本作は第二次世界大戦時、ドイツ海軍の潜水艦Uボートに乗り込んだ者達にスポットを当てた作品。シンプルに言えば、戦争映画だ。

ただし、その辺によくある戦争モノのように、ダイナミックな銃撃戦や爆撃で「奴等のケツ穴にこいつをぶち込んでやるぜ」とか、満身創痍の男がキメ顔で言い放つ「食らいやがれ、クソったれ共が」などが見所の作品ではない。

かといって、フィクションにありがちなヒーロー達の輝かしい英雄譚でもなければ、美しい愛国心を描く物語でもない。

主役となるドイツ海軍は、潜水艦という劣悪な閉鎖空間で、敵艦に脅かされながらじわじわと精神を削られていく。これは逃げ場のない極限状態の中、戦争を生き抜くため、四苦八苦させられる男達の立場を追体験させられる作品だ。

要するに、鬱作品である。

徹頭徹尾、殺伐とした雰囲気。もしかすると、クリストファー・ノーラン監督作の戦争映画であるダンケルクも、こうした作風に影響を受けたのではないか? と勝手に推察した。

【映画レビュー】体験型絶望アトラクション『ダンケルク』
根強いファンがいる一方で「暗い」「理屈っぽい」「なんかめんどくさい」とのヘイトを集めがちな、クリストファー・ノーラン監督作。その中でも、第2次世界大戦のダンケルク撤退をテーマに描かれた作品が映画『ダンケルク』です。ちなみに、私はどちらかと言...

 

外出自粛どころか監禁状態

何せ舞台は戦時中の潜水艦。四方を海に囲まれた艦内は物資も燃料も限られており、乗組員達の生活空間は最低限のスペースしかない。

狭い、暑い、臭いという牛丼屋チェーンもビックリの三拍子で、寝ても覚めても缶詰状態という解消しようのないフラストレーションが随所に描かれている。

さらに、言わずもがなだが、彼等は軍人だ。日がな一日、胸焼けするようなストレスにさらされていようとも、敵艦と戦わなくてはならない任務がある。

沈めるか、沈められるかの世界だ。海中の静寂の中、頭上に迫り来る駆逐艦の駆動音に、探知機の電子音。敵艦に見つかるまいと誰もが息を潜める艦内のシーンは、無駄な劇中音楽もなく、ただひたすらに生きるか死ぬかのストイックな緊迫感が漂う。

当然、攻撃を受ければあちこちが浸水する。敵を振り切るには、深く潜ってやり過ごすほかないようだが、戦時中の技術力ではさほど深くまでは潜水できない。潜れば潜るほど、潜水艦はきしみを上げる。水圧に耐え切れず、ついには弾丸のように艦内を弾け飛ぶ部品の数々。

敵艦の爆撃に殺されるか。大海の猛威に殺されるか。

どう足掻いても死のビジョンしか見えてこない状況下に、祈るような表情で震える乗組員達は鬼気迫るとしか言いようがない。

これって実はホラー映画だったのか?という逼迫感の連続で思わず笑ってしまう境地だ。こんなん病気になるよ。もういっそのこと、早く殺してあげようよ!

 

没入感を高める親切設計

本作は「戦争ものって難しそう」「歴史とかよくわからん」という人も、話の途中で迷子にならないような構成がなされている。

そのために一役買っているのが、U・ボートの乗組員として登場する、ひとりの従軍記者だ。

彼は勝手知ったる海軍のメンツとは違って、外部から迎え入れられた新参者であり、閉じられた戦場の目撃者だ。言わば、この映画を観る者の代役を担ってくれている。

舞台となる艦内の様子や、潜水艦の機能を示唆する描写、現在の戦況に至るまで、映画の鑑賞者は記者を介して、きちんと状況を理解できるように説明されることになる。

必要な情報が必要な場面で端的に伝えられる構成は、脚本の妙技として光っているように感じられた。

ただし、映画としてわかりやすく作られている反面、地獄のようなシチュエーションを否が応でも理解せざるを得ないという副作用がある。

はっきり言って、ドSの所業である。

感情移入しやすい人にこそ、是非ともこの作品の醸し出す没入感をおすすめしたい。途中から、胃が重たくなってくること間違いなしだ。

 

最後まで結束力のある乗組員達

本項はちょっとネタバレになるので、内容を知らずに鑑賞したい人は飛ばしてほしい。(飛ばしたい人はクリック

前述した通り、心身共に追い込まれた人間が狭い艦内に集められ、生きるか死ぬかの生活を余儀なくされていく割りには、乗組員達の団結が最後まで継続するのが個人的には不思議に映った。

一応はわずか1名、申し訳程度に暴れる人間も見られて、あわや発砲するところだった! という事態にも陥るものの。ほとんどの乗組員はストレスフルにもかかわらず、ちゃんと任務に従事している。

初めはおっかなびっくり右往左往していた従軍記者ですらも、最終的には海軍と一丸となって、損傷した船の修復に汗を流すのだ。

全ての望みが絶たれ、生涯の終わりを悟りつつある状況においても、錯乱して任務を投げ出したり自害を試みるような行動には出ない。

個人的な好みになるが「閉塞感の中で徐々に悪化していく一触即発の人間模様」とか「眠っている怪我人からこっそり酸素マスクを奪ってしまう」とか「しまいには乗員同士で殺し合いになってしまう」みたいな粘っこい展開になってしまうんじゃないかと想像していたので、何かが起こりそうに見えて何も起こらない艦内の人間関係は、若干、煮え切らない印象があった。

まあ、みんな軍人だものね?

ちゃんと規律の下に生きてて、今後の人生があるんだもんね?

あくまで本作は戦争モノであって、極限に置かれた人間達のどろどろした心情を楽しむ映画ではないのだ。

そもそも作品の舞台自体が法もへったくれもない世紀末という訳ではないし、どこぞのウォーキングなんちゃらみたいな崩壊世界じゃないんだから、考えてみれば当たり前ではある。

やたらと場を荒らすヒール的な登場人物が1人もいない分、ある意味で安心して見られる作品かもしれない。

映像美なんてどうでもいい!

本作が日本で公開されたのは、1982年。当然、現代のハリウッド映画のように、これでもかとCG技術を駆使したクライマックスシーンはない。

陸上戦を描いた作品でもないため、華のあるアクションシーンもなく、作中は潜水艦内の情景が大半を占めるという地味さは否めない。似たような場面の連続に中弛みを感じてしまう人にとっては、かなりハードルの高い作品になっている。

しかし、そんなことはどうでもいい。

この作品が描写するのは、連綿と続く閉塞感であり、無常な現実であり、上げて落とすタイプの手に負えない絶望感なのだ。むしろ映像技術の限られた時代に、これだけの臨場感を孕んだ骨太な作品が作られていた事実には驚愕を禁じ得ない。

しかも、私が鑑賞したのは約3時間半にも上るディレクターズ・カット版だ。3時間半もの間、傑作と呼び声高い暗鬱の空気感に浸り続けることができるなんて、贅沢のハッピーセットである。

細かいことは考えずに、延々と突き付けられる閉鎖世界に酔うべし。

没入すればするほど、ラストシーンのカタルシスは余韻をもたらすはずだ。

 

おまけ

クリストファー・ノーラン監督作の『ダンケルク』でも触れた話だが、本作は映画においてお約束になりがちである「ドイツ軍を悪役として描写する」テンプレを逸脱した、純粋な戦争映画だ。

ナチスドイツを叩いておけばオッケーだよね! という画一的な作風ではない点もまた、この作品の魅力のひとつだと感じた。

 

おしまい

「これが今だ。これこそ現実だ」

従軍記者が艦長と語らう、じっとりとした絶望のワンシーンは一見の価値あり。

祖国のためだ、銃撃戦だ、家族の愛だ、などという戦争映画のステレオタイプに飽き飽きした人へ。ついでに、家でじっとしてられないナイーブ現代人へ。ガリガリとメンタルにヤスリをかける、傑作映画だ。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました